スローフード宣言
食べることは生きること
アリス・ウォータース
小野寺愛[訳]
出版:海土の風
私は最初に本の目次を時間かけてじっくり見るタイプ。
目次を見て、この本がどんな事を教えてくれるのかを確認しています。
この本はファストフード文化と、スローフード文化の2章に分かれていて
それぞれの文化を端的に伝える言葉が箇条書きになっていました。
最近のビジネス書は沢山の章&見出しが連なっていて、目次を見ても全体像の把握が難しいものが多いけれど、この本は本当にシンプル!
目次を見ただけで、どんな事を、どのように、どんな順番で話しかけてくれるのかが、一目瞭然。読む前から期待度アップしてわくわくでした。
この本を手に取る人は、恐らくアリス・ウォータースがどんな人物なのか知った上で読まれると思うのですが、もし彼女のことを全く知らない人が読み始めると、最初は戸惑うかもしれません。
アリスは現在78歳(誕生日が私と同じ!ど真ん中の牡牛座。笑)と言うお年から、若い頃の話というと1970年代。 その頃のオーガニックやスローフード界で、名のしれた方や、本の題名、学生運動の話しなどが出てきます。
オーガニックが大好き&50代の私は知っている方のお名前や本もいくつかあり、70年代の様子も何となく分かります。が、若い方は想像が難しいのかもしれません。
また、この本は分かり易く訳されていて日本語の表現として違和感はないのだけれど、ちょっと小難しい部分もなきにしもあらずかな?とも思いました。
この2点を考えると万人向けの本と言うよりも、ある程度オーガニックやスローフードに興味があって実践してきた方達が読みやすいと思います。
ただ、この本で伝えていることは、ぜひ広く沢山の方たちに知っていただきたい内容ばかりです。なので、これを読んだ人が自分の言葉に変えて、伝え、広げてゆく必要があると思いました。
じっくり読み込み、新しい発見や共感する部分にハイライトや付箋を沢山貼ったのですが、その中から特に心に響いた部分をいくつかご紹介します。
ことば:
”言葉がすごいスピードでハイジャックされることに怖さを感じます。
たとえば「サステナブル」など、食のムーブメントが自分たちを表現する言葉を見出すたびに、ファストフード産業がそれを吸収し、どこでも無差別に使うようになります。
するとその言葉は意味をなさなくなり、曖昧で誤解を生む種となります。「無農薬」「検定済」「平飼い」「放牧」など、上滑りするようになった言葉がたくさんあります。”
(本書より引用)
これを読んで少し前に私がインスタグラムで投稿した「ヴィーガン」について思い出しました。
ヴィーガンの思想はとっても素晴らしいものですが、それを(アリスの言葉を借りるなら)ファストフード文化が無差別に使うようになりました。
「ヴィーガン」と使うだけで聞こえは良いけれど、その中身は遺伝子組み換えの植物だったり、合成化学成分や薬剤を使用していて、有害物質が出てしまうのでは本末転倒です。
ファストフード産業もきっと「出来ることから少しづつ」と企業姿勢を変えているのだと分かっています。いきなり急に全部を変えることなどできないと。
頭では分かっているけれど、
「ペットボトルを◎年までに全部リサイクルに」
と謳いながら、そのリサイクルの過程で化石燃料を使い、有毒物質を空中や下水に流し、ペットボトルの中に遺伝子組み換え作物や合成化学成分を原料とした飲み物を入れて販売する企業には、どうしても好感を持つことはできません。
ちょっと話が逸れてしまいました。
もう一つ、素敵だと思った一節を紹介します。
それはスローフード文化の章にあった「美しさ」について。
アリスはこの本の中でこんな風に言っています。
絵画、詩、建築、ダンスなどの芸術美は、主観的なもの。なので、ある絵を見て「美しい」と感じる人もいれば、感じない人もいる。
でも自然から湧き起こる美しさは普遍的。誰もが夕焼けには心を奪われ、海や山をみて「自分はとてつもなく大きく偉大なものの一部である。」と感じて畏敬の念をいだく。
これ、本当にそうだと思いました。
特に私が重ね煮を伝えるときに良く使う「畏敬の念」と言う言葉。
今まで具体的に言葉にして説明が難しかったのだけれど、「そうそう!こう言うこと!」と手を打ちたいくらいでした。
この畏敬の念を体で感じることができると、自分や個人の狭い関心ごとなんて些細なことだと思えます。そして感謝の気持ちが溢れてきて、自然に対して謙虚な気持ちになります。
アリスは自然の美しさを畏敬の念を持って毎日の暮らしに取り入れる、一番簡単な方法は「食から。」と綴っています。まさに重ね煮に通じる思いがあって、とても嬉しくなりました。
そして最後に拾ったとても大切な言葉があります。
それは
“自然とは生と死の循環です”
私たち人間を含む、全てのクリエイション(宇宙、地球の創造物)は生まれてきて、死んでゆく。その繰り返しで何億年もの時間を紡いできました。
だから私の命も、その何億年もの時間の中の一瞬の輝きにしかすぎません。
でも、その一瞬の輝きがたくさん集まって、未来を作っている。
どんな輝きを放つかによって、私にも未来を変える力があるんだ。
そして私たち動物の生死だけでなく、植物の生死、見えない極小の微生物たちの生死の入れ替わり、大きな地球や銀河系の星たちの生と死の循環。全てが自然なのだと思うと、ここでも畏敬の念を感じずにいられません。
アリス・ウォータースのスローフード宣言、ぜひ読んでみてくださいね。
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